▌A21では、「耐震診断はどのように進めるか?―地震に危ない建物の見分け方(その2)」について説明しました。 そこでは、木造住宅と鉄筋コンクリート造建物の最も簡便な診断法、すなわち木造住宅については「一般診断法」を、鉄筋コンクリート造建物については「一次診断法」について概要を説明しました。
本項では、後者の鉄筋コンクリート造建物の「一次診断法」に関し、構造耐震指標Isの意味するところ、すなわちIs値と地震による被害程度との関係やその根拠について説明します。
A21では、建物の耐震性をIs(構造耐震指標)≧Iso(構造耐震判定指標)で判定しました。では、実際の建物でIs値はどの程度あればどの程度の耐震性(被害程度)があるのでしょうか。
これに答えた検討の結果が図に示す1次診断用Isと被害程度の関係です。
横軸は1階の壁の量Awを、縦軸は1階の柱と壁の総量が建物重量をどのくらい支えているかを示したものです。また、実線は1階の柱の量Acを示した曲線です。
この図に、1968年の十勝沖地震、1978年宮城県沖地震による被害の程度をプロットします。×印は大破および中破を、〇印は小破および無被害を示しています。
これは、いわゆる志賀マップ(*注)と呼ばれるもので、柱や壁の量と建物の耐震性の関係を概略把握する際にとても便利なものです。
ここで、Isを次の2式で求め図中に破線で重ね書きします。
・Is=7×Ac/1300ΣAf+20×Aw/1300ΣAf
・Is=10×Ac/1300ΣAf
その際の仮定として、建物の重量を1300kgf/㎡、柱の平均せん断応力度を10kgf/c㎡(ただし、壁の耐力と合算する場合は7 kgf/c㎡)、壁の平均せん断応力度を20 kgf/c㎡としています。
志賀マップとIsの物理的関係は複雑になるので説明を省きますが、この図によれば、Isが0.8以上であれば被害は小破あるいは無被害にとどまっている(被害程度のイメージは下の表を参照ください)ことがわかります。
すなわち、鉄筋コンクリート造建物の1次診断において、Isが0.8以上あれば地震により柱や壁など主要な構造体にほとんど被害はでないと言って良いでしょう。
図 1次診断用Isと被害程度の関係
2017年改訂版 既存鉄筋コンクリート造建築物の耐震診断基準 同解説 (財)日本建築防災協会 より
▌ところで、鉄筋コンクリート造建物の耐震診断では、「2次診断法」と呼ばれる1次診断よりもう少し詳細な、比較的汎用されている診断法があります。こちらの診断結果を目にすることもあるかも知れませんので、以下にその結果の見方についてごく簡単に説明しておきます。
1次診断法と2次診断法はその評価プロセスが異なるため、評価結果が厳密に対応しているとは言えませんが、これまでの研究により次のことが認められています。
・2次診断結果では、Is値にして0.6以上の建物には中破以上の被害は生じていない。
・1次診断におけるIs=0.8および2次診断における0.6は、被災した建物のIs値より大きな値である。
・また、別の研究では2次診断において、
① Is値が0.4以下の建物の多くは倒壊または大破している。
② 0.4~0.6の建物では小破以下の事例は少なく、大多数に中破以上の被害が生じており、倒壊・大破となる場合もあった。
③ 0.6以上の建物では、若干の例外はあるもの被害は概ね小破程度以下にとどまった。
以上をまとめると、1次診断ではIs=0.8以上、2次診断ではIs=0.6以上あれば被害は概ね小破以下におさまると言って良いでしょう。
建築物の耐震改修促進法(平成25年改正)ではIsが0.6以上の建物については「地震の震動及び衝撃に対し倒壊し、又は崩壊する危険性が低い」と評価されます。
しかし、ここで注意しなければならない点は、「倒壊・崩壊する危険性が低い」ということは「倒壊・崩壊の危険性がなく被害が全く生じない」ということではないということです。
上にも書きましたが、「1次診断でIs=0.8以上、2次診断でIs=0.6以上あれば被害は概ね小破以下におさまる」ということは、柱や壁など主要な構造体にほとんど被害は出ないものの、地震の規模によっては建物の二次的な壁や柱・梁にひび割れが生じたり、建物の使用上の制約を生じさせるような被害が出る可能性もゼロではないということです。
以上のような点に留意し、建物の耐震診断はIs値を参考に、建物の種別・目的・立地条件などを考慮して総合的に判断する必要があります。
(*注)志賀敏男 他、「鉄筋コンクリート造建物の侵害と壁率」日本建築学会東北支部研究報告、No.12、1968年
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