▌建物安全の基礎知識「A1 地震に危ない建物」では、建物の安全を外見からおおよそ見分ける方法を示しました。
本項では、地震に危ない建物の見分け方(その2)として、構造のなりたちから見分ける方法=耐震診断について代表的方法を取り上げその概要を示します。
これは、建築士などの専門家が、建物の構造のなりたちを調べ、耐震性を定量的に診断するものです。この結果をもとに、建物の耐震性がどの程度あるか判断するとともに、さらに詳しい診断が必要か、建物の耐震性を向上するための耐震改修が必要か、などを判断する材料とするものです。
本項では、耐震診断がどのようなものかのおおよそを示し、一般の方が診断の結果を理解する際の手助けをする資料を提供することができればと思います。
さらに詳しい内容を知りたい方は、他の解説書や関連するホームページを参照ください。
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ここでは、まず耐震診断に共通する基本的考え方を述べ、次に木造住宅と鉄筋コンクリート造建物の場合を例に説明します。
Ⅰ. 耐震診断に共通する基本的考え方
耐震診断は、すでに建っている建物の地震に対する安全性を、その建物の設計図書や調査に基づいて判断する作業です。
これから建物を建てる際に行う耐震設計とは異なります。建物の耐震性は、一般的に次の関係から判断します。
必要耐力 < 保有耐力
ここで、必要耐力は地震により生じる建物の地震力を意味し、地震力に抵抗する建物の抵抗力が保有耐力となります。前者より後者が大きい場合、建物は安全と判断します。
必要耐力(=地震力)は、一般に次のように求めます。
地震は地面の動きであり、これにより建物は揺れます。揺れの大きさを加速度で表すと、建物に生じる地震力は、加速度×建物重量で表されます。これが必要耐力に相当します。従って、必要耐力は、建物の加速度が大きいほど、建物重量が大きいほど、大きくなります。また、建物の下の方の階ほど上の階の重量を支える分だけ大きくなります。
保有耐力(=抵抗力)は、一般に次のように求めます。
建物を構成する部材(柱や梁、壁・筋交いなど)は、それぞれの形状、大きさ、材質、接合部などの状態により、それぞれ固有の抵抗力を持っています。保有耐力はこれら部材固有の抵抗力の合計で表されます。耐震診断では、これら部材固有の抵抗力を、過去の震災経験や既往の実験結果などから導かれた算定式に基づいて評価します。また、保有耐力の評価には建物の構造計画(建物高さ方向や階の平面方向での強さや硬さのバランス配置)が大きな影響を与えるため、建物形状や部材の配置などに関してその影響も定量的に考慮します。
なお、鉄筋コンクリ―ト造建物の場合、必要耐力や保有耐力はそれぞれ耐震判定指標や耐震指標として扱われます。
Ⅱ.木造住宅
ここでは、(一財)日本建築防災協会「2012年改訂版 木造住宅の耐震診断と耐震補強」で示された簡便な「一般診断法」の概要を説明します。さらに詳細に診断できる精密診断法も示されています。
診断は、極めて稀に発生する地震動による住宅の倒壊可能性の有無を調べることを目的とし、次式の上部構造評点によって評価します。判定は表1によります。
上部構造評点=edQu(保有耐力)/Qr(必要耐力)
Qr(必要耐力)=住宅の重量に相当し、階に応じて必要耐力が定められています。
→重量の大きい住宅ほど必要耐力は大きい、軽い住宅ほど地震に有利
→2階建てなら2階より1階の方が大きい、2階より1階を強くする必要あり
edQu(保有耐力)=Qu×eKfl×dK
Qu =Qw(壁・柱の耐力)+Qc(開口のある壁などの耐力)
eKfl=耐力要素の配置等による低減係数 図1(壁の例)
dK =建物各部位に生じた、さび、割れ、欠落、水浸み痕、腐朽、傾斜、蟻害、等による低減係数
→これらが少ないほど耐力は高い。築10年以上は要注意
Qw=Σ { Fw(壁基準耐力)×L(壁長)×Kj(柱接合部による耐力の低減係数)}
Fw:壁の工法により決まる耐力
→しっかりした材料・工法ほど耐力は高い 図2
L:開口のない壁の平面上の長さ
→壁の累計長さが長い方が耐力は高い
Kj:壁基準耐力・基礎の仕様・接合部の仕様により決まる耐力の低減係数
→接合部がしっかりした方が耐力は高い 図3
→基礎がしっかりした方が耐力は高い 図4
Ⅲ.鉄筋コンクリート造建物
ここでは、(一財)日本建築防災協会、国土交通大臣指定耐震改修支援センター「2017年改訂版 既存鉄筋コンクリート造建築物の耐震診断基準同解説」で示された比較的簡便な「1次診断法」の考え方の基本を示します。
この他に、「2次診断法」、「3次診断法」があります。それぞれ評価法に特徴がありますが、次数が上がるにしたがって評価が詳細になります。
建物の耐震性は、Is(構造耐震指標)によって評価します。
Is(構造耐震指標)=Eo(保有性能基本指標)×Sd(形状指標)×T(経年指標)
Eo(保有性能基本指標)=(壁の強度指標Cw+柱の強度指標Cc)×壁&柱の靭性指標Fw
Cw=Σ(壁の終局時せん強度×コンクリート強度係数β)/建物重量W
Cc=Σ(柱の終局せん断強度×コンクリート強度係数β)/建物重量W
→壁の終局時せん強度は、柱がとりつく壁ほど高い 図5
→柱の終局せん断強度は、極短柱(注1)の場合低い
→コンクリート強度係数βは、コンクリート圧縮強度が高いほど大きい
Fw=1.0 ただし、極短柱は0.8
(注1)極短柱とは、柱幅Dに比べ柱長さhが短い柱で、地震のとき耐力が急激に落ちる脆い壊れ方をするため、耐力を低く評価します。 図6
(注2)Eo(保有性能基本指標)は、部材の耐震性能を強度のみでなく変形のねばり強さである靭性を考慮して算定するところに特徴があります。 図7
Sd(形状指標)
建物の形状により耐震的に不利になる影響を考慮する。その要因として、
(1)建物平面形状
・整形性 →整形なものほど有利、不整形なものほど不利
・辺長比 →正方形に近いほど有利、長方形の割合が増すほど不利
・くびれ →くびれが少ないほど有利、多くなるほど不利
・エキスパンションジョイントEX →EXがある場合、間隔が狭いほど不利
・吹き抜け →吹き抜けがある場合、その規模が小さいほど有利、大きいほど不利
(2)建物断面形状
・地下室 →地下室がある場合、建築面積に占める地下室の面積が小さいほど不利
・層高(階の高さ)の均等性 →均等なものほど有利、不均等なものほど不利
・ピロティー →ピロティーがないと有利、ピロティーがありかつ配置が偏っているほど不利
T(経年指標)
建物の経年変化により耐震的に不利なる影響を考慮する。その要因として、構造体に生じている「ひび割れ」「変形」「老朽化」等の構造的欠陥を建物の調査結果に基づいて評価します。
→これらの割合が少ないほど有利、多いほど不利
耐震性の判定は次式によります。
Is(構造耐震指標)≧Iso(構造耐震判定指標)
Iso(構造耐震判定指標)=0.8×Z(地域指標)×G(地盤指標)×U(用途指標)
Z(地域指標):その地域の地震活動度や地震動の強さによる補正係数
G(地盤指標):敷地地盤の揺れ易さ、地形効果(がけ地や高台など)による補正係数
U(用途指標):建物の用途や重要度(公共建物や病院など)による補正係数
【解説】
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